『感謝する死者』
旅人がある村にさしかかると
村人たちが道に倒れて死んでいる男を
棒でなぐったり、石をぶつけたりしていた。
旅人が驚いて尋ねると、
「この男は葬儀代を残さずに死んだんです。
こうしてやるのが村のしきたりなんです」と言う。
旅人は持っていた最後のコインを村人たちに渡し
ていねいに埋葬してくれるよう頼んだ。
村を出て旅を続けていたある日
ひとりの若者と出会い、旅人に同行するようになる。
旅人が川に落ち急流に流されたときは
この若者が飛び込んで助けてくれた。
大怪我をした足は薬草を探してきて治してくれた。
食べ物がなくなったときは果実をもってきてくれた。
旅人をたくさん助けてくれた若者は
ある日別れを告げて別の道を歩いていった。
若者が風のように去ったあと
旅人ははじめて気がつく。
若者はあの日あの村で死んで倒れていた若者だった。
(翻案/南風椎)
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